本記事は、東京不動産研究所『東京不動産データレポート』2026年第3四半期(創刊号)の価格差編です。分析には東京23区の中古マンションの成約データを使用しています。レポートの全文は、bukken.ioの日本不動産市場レポートページでお読みいただけます。
同じ区で同じ広さの中古マンションでも、売出価格が大きく違うことがあります。区の相場は出発点にすぎず、実際に価格を大きく分けるのは、築年数、駅からの徒歩分数、そしてその一帯で想定される浸水深です。3つとも数字で確認でき、それぞれに例外もあります。
築年数:価格の高い区ほど値下がりが大きい
価格の高い区ほど、築年数による値下がりが大きくなります。港区では築0〜5年の㎡単価が238万円、築40年以上が100万円で残存率は42%、世田谷区は築0〜5年133、築40年以上68で残存率51%、江戸川区は築0〜5年83、築40年以上44で残存率53%(万円/㎡、全期間中央値)となっています。

図1 築年帯別 成約㎡単価中央値。出所:国土交通省「不動産情報ライブラリ」より東京不動産研究所作成。
値下がり幅が大きいのは、古い物件が劣っているからではなく、新築プレミアムが大きいからです。割安な価格で手に入れているのは、将来の修繕費の請求書です。 この割安が妥当かどうかを決めるのは、修繕積立金の残高、各戸の月額積立金、そして直近の大規模修繕の実施年という3つの数字です。
実務上の判断基準は次のとおりです。
- 築30年以上で、大規模修繕の履歴もない物件は、迷わず見送ります。
- 修繕積立金の残高が明らかに不足している物件は、売出価格の1〜2割引きを実質的な価格とみなして交渉します。今後の修繕が難しく、抱えると厄介な物件になるからです。
- 築40年以上の物件でも、管理状態が良好で、かつ区内の新築プレミアムが2倍を超える区(港区・渋谷区)であれば、まだ割安分を取りに行く余地があります。
駅からの距離:徒歩1分ごとに1.6%安く、都心は例外
成約㎡単価が最も高い3駅は、大門408、虎ノ門ヒルズ275、白金高輪241(万円/㎡)で、最も低いのは高島平の38です。
同じ区・同じ条件なら、駅からの徒歩が1分延びるごとに、㎡単価は1.6%下がります。レポートでは23区を、都心5区(千代田・中央・港・渋谷・新宿)、周辺5区(足立・葛飾・江戸川・板橋・練馬)、残りのその他13区の3グループに分けています。その他13区と周辺5区では駅から遠いほど安くなりますが、都心5区ではむしろ徒歩6〜15分のほうが1〜5分より高くなっています。徒歩分数は町丁目の代表点から推計した値で、統計用途に限ります。

図2 成約㎡単価上位15駅(2025年〜、30件以上)。出所:国土交通省「不動産情報ライブラリ」、「国土数値情報」、e-Statより東京不動産研究所作成。

図3 徒歩分と成約㎡単価。出所:国土交通省「不動産情報ライブラリ」、「国土数値情報」、e-Statより東京不動産研究所作成。
表1 徒歩分別 ㎡単価中央値(万円)
| 駅徒歩 | その他13区 | 周辺5区 | 都心5区 |
|---|---|---|---|
| 1〜5分 | 105.0 | 70.0 | 157.8 |
| 6〜10分 | 101.7 | 67.3 | 177.8 |
| 11〜15分 | 88.0 | 58.4 | 175.0 |
| 16分以上 | 70.8 | 51.1 |
出所:国土交通省「不動産情報ライブラリ」、「国土数値情報」、e-Statより東京不動産研究所作成。都心5区の徒歩16分以上の欄は、レポートに数値が掲載されていません。
「駅近」の法則が成り立つのは、通勤市場だけです。松濤・番町・麻布のような低層住宅地が売りにしているのは環境と希少性で、通勤時間ではありません。まず、買うのはどちらの市場なのかを見極めてください。2つの市場の評価ロジックを互いに当てはめることはできません。
- 通勤市場(その他13区と周辺5区):徒歩10分以上の物件は、価格がすでに割り引かれており、家賃もそれに連動して低くなります。これは割安という意味ではありません。徒歩分数も織り込んで利回りを計算してください。
- 都心5区の徒歩6〜15分の高価格帯:同じ町丁目の直近の成約事例で評価し、徒歩分数の式は使いません。
都心5区で徒歩6〜15分のほうがかえって1〜5分より高いのは、駅に近すぎると鉄道の騒音や繁華街の喧騒、治安の問題があり、徒歩6〜15分のほうが都心にいながら静かな環境を得られるためかもしれません。
見方を変えれば、駅から徒歩6〜15分の物件が駅前の物件より劣るとは限りません。駅までの道が歩きやすく、生活の利便性も保たれていれば、価格は一般に妥当な範囲にとどまりやすくなります。駅前で上乗せして支払った分が、すべて高い家賃に変わるとは限りません。ただし、売買の流動性は通常、駅前のほうが高くなります。
浸水と地盤:割引がはっきり出るのは浸水3m以上
同じ区・同じ条件なら、浸水3〜5mの物件は11.6%の割引、浸水5〜10mは15.3%の割引で、浸水3m未満は2.7〜4.8%の割引にとどまります。洪水浸水想定区域内(深さを問わず)では平均6.2%の割引、液状化危険度高は13.9%の割引で、土砂災害警戒区域ではむしろ1.4%のプレミアムがつきます。これらの価格差は、区、面積、築年数、構造、徒歩分数、四半期を制御したうえでの数値です。
東部6区(江戸川・葛飾・足立・墨田・江東・荒川)では、成約のうち洪水浸水想定区域内にある割合が66〜100%です。そのうち足立・葛飾・荒川・墨田の4区は100%で、都心に位置する中央区も92%に達します(図4)。

図4 区別 成約の洪水浸水想定区域内比率。出所:国土交通省「不動産情報ライブラリ」、「国土数値情報」、e-Statより東京不動産研究所作成。

図5 浸水深別の価格差(ヘドニック回帰)。出所:国土交通省「不動産情報ライブラリ」、「国土数値情報」、e-Statより東京不動産研究所作成。
図の読み方:各棒は、「その浸水深ランクの場所で成約した中古マンション」と、「同じ区・同じ面積・同じ築年数・同じ構造・同じ徒歩分数・同じ四半期で、どの浸水想定区域にも入っていない中古マンション」との価格差です。つまり、ヘドニック回帰(物件の特性から価格を説明する回帰分析)でこれらの条件の影響を取り除いたあとに残る部分です。マイナスは割引を意味します。括弧内のt値は、絶対値が大きいほど、その割引が標本誤差による偶然の差ではないことを示します(絶対値が2を超えれば統計的に有意とみなします)。たとえば浸水3〜5mは-11.6%で、同じ条件なら市場では平均して約12%安い価格で取引されている、という意味です。浸水深の区分は国土交通省の洪水浸水想定(想定最大規模、おおむね1000年に1回程度の降雨を想定)に基づき、成約は町丁目の代表点で紐付けています。統計上の結果であり、個別の物件を示すものではありません。
表2 災害変数の価格差と統計量
| 変数 | 価格差 % | t値 | サンプル数 |
|---|---|---|---|
| 洪水浸水想定区域内(深さ問わず) | -6.2 | -25.8 | 36,488 |
| 土砂災害警戒区域内 | 1.4 | 2.1 | 1,481 |
| 液状化危険度高(レベル1〜2) | -13.9 | -40.0 | 30,833 |
| 浸水0.5m未満 | -4.8 | -17.6 | 15,192 |
| 浸水0.5〜3m | -2.7 | -10.4 | 26,085 |
| 浸水3〜5m | -11.6 | -33.7 | 12,781 |
| 浸水5〜10m | -15.3 | -34.7 | 4,206 |
出所:国土交通省「不動産情報ライブラリ」、「国土数値情報」、e-Statより東京不動産研究所作成。
市場はすでに水害を価格に織り込んでいますが、織り込んでいるのは「深さ」の階層までです。液状化の割引が洪水より大きいのは、雨量ではなく地盤を捉えているからです。土砂災害警戒区域はむしろプレミアムになっています。東京では傾斜地が高級住宅地であるためで、この項目は東京では逆に読む必要があります。
- 浸水3m未満の割引は小さすぎて、保険と流動性のコストを補えません。この1〜2ポイントのために買うべきではありません。
- 浸水3m以上の割引こそが本当の割安ですが、火災保険に水災補償を付ける追加の保険料と、売却時に買い手が減ることも計算に入れる必要があります。
実務では、購入を申し込む前に、その町丁目の浸水深ランクと液状化危険度を確認します(ハザードマップポータルサイト)。または、bukken.ioで災害などの情報を含む総合的なレポートを直接取得することもできます。市場がつける割引は浸水3〜5mで約-11.6%、液状化危険度高で約-13.9%です。売出価格にこの割引が反映されていなければ、割高です。
購入を申し込む前の2つの注意点
- 見るべきは浸水深ランクで、区域の内か外かではありません。 浸水3m未満の割引では保険と流動性のコストを補えず、本当の割安といえるのは浸水3m以上です。購入を申し込む前に、その町丁目の浸水深ランクを確認してください。
- 築20年以上の割安は、管理状態とあわせて判断してください。 修繕積立金の残高、月額積立金、直近の大規模修繕の実施年の3つの数字が手に入らない物件は見送ります。
データについて
- 成約データ:国土交通省「不動産情報ライブラリ」、東京23区の中古マンション。築年数による値下がりは全期間の中央値、駅ランキングは2025年以降、成約30件以上の駅を対象としています。
- 徒歩分数と災害レイヤー:町丁目の代表点を、「国土数値情報」の鉄道駅と洪水浸水想定区域(想定最大規模)、土砂災害警戒区域、液状化危険度に紐付けたもので、統計上の代理値です。個別物件の判断には適用できません。
- ヘドニック回帰では区、面積、築年数、構造、徒歩分数、四半期を制御しています。結果は相関関係であり、因果関係ではありません。
- 本記事は公開データの整理と統計分析であり、投資助言ではありません。
参考資料
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